CrowdStrike大規模障害から学ぶ!システム信頼性を支えるSREの考え方と安全なアップデート戦略
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はじめに
こんにちは!長年、業務系からエンタメ系まで、様々なシステムの開発に携わってきたプログラミング教育者です。皆さんも記憶に新しい、2024年7月に世界中を揺るがしたCrowdStrikeの大規模障害。航空会社のフライトがキャンセルになったり、銀行のATMが停止したりと、私たちの生活に大きな影響を与えました。一見すると、遠い世界の大企業で起きたセキュリティ製品の問題のように思えるかもしれません。
しかし、この一件は、システム開発に携わる私たち全員にとって、決して他人事ではない貴重な教訓を含んでいます。なぜなら、障害の根本原因は「ソフトウェアのアップデート」という、私たちの日々の業務に直結するプロセスにあったからです。今回は、このインシデントを「学びの機会」と捉え、私たちのシステムをより強く、より信頼性の高いものにするための考え方、特に「システム信頼性工学(SRE)」と安全なアップデート管理の重要性について、一緒に深掘りしていきたいと思います。失敗から学ぶことこそ、エンジニアが成長するための最高の近道ですからね!
インシデントから学ぶシステム信頼性工学(SRE)とは何か
今回の障害をきっかけに、システムの「信頼性」について改めて考えさせられた方も多いのではないでしょうか。そこで注目したいのが「SRE(Site Reliability Engineering)」という考え方です。これは、特定のツール名ではなく、システムの信頼性を維持・向上させるための文化やプラクティスの集合体です。
基本的な概念と特徴
SREは、Googleが提唱したアプローチで、一言で言うと「ソフトウェアエンジニアリングの原則を、インフラ運用やオペレーション業務に適用する」ことです。従来の運用チームが手作業でサーバーを管理していたのに対し、SREでは運用の問題をソフトウェアの問題として捉え、コードを書いて自動化することで解決しようとします。
最大の特徴は、「障害は起こるもの」という現実を直視している点です。100%の安定稼働を目指すのではなく、どの程度の障害なら許容できるか(サービスレベル目標、SLO)をビジネスサイドと合意し、その範囲内で積極的に新しい機能のリリースや挑戦を行います。この「許容される失敗の量」を「エラーバジェット」と呼び、これを使い切らないように開発と運用のバランスを取るのがSREの基本思想です。
なぜこの技術が注目されているのか
CrowdStrikeの事例が示すように、現代のシステムは相互に複雑に連携しており、一つの障害が世界規模の影響を及ぼす可能性があります。マイクロサービス化やクラウドネイティブ化が進む中で、システムの全体像を把握し、手作業で管理することはほぼ不可能です。
SREは、このような複雑なシステムに対して、データ駆動型のアプローチを提供します。勘や経験だけに頼るのではなく、SLI(サービスレベル指標)という具体的な指標でシステムの健康状態を計測し、SLO(サービスレベル目標)という明確なゴールを設定します。これにより、感情的な議論を排し、客観的なデータに基づいて「今リリースすべきか、それとも安定性向上に注力すべきか」を判断できるようになるのです。この合理性が、変化の速い現代のビジネス環境で強く求められています。
初心者が知っておくべきポイント
SREの世界に足を踏み入れるなら、まずは以下の3つのキーワードを覚えておきましょう。
-
ポストモーテム(非難なき事後検証): 障害が発生した際に、「誰が悪いか」を追及するのではなく、「なぜそれが起きたのか」をシステムやプロセスの観点から深く掘り下げ、再発防止策に繋げる文化です。失敗を学びの機会と捉えるSREの核となる考え方です。
-
SLI, SLO, エラーバジェット: これらはサービスの信頼性を測る物差しです。SLIは「リクエストの成功率」などの具体的な指標、SLOは「月間の成功率99.9%」といった目標値、エラーバジェットは「目標を達成するために許容される失敗の量(この場合0.1%)」を指します。開発チームはこのバジェット内で新機能リリースなどのリスクを取ることができます。
-
Toil(トイル)の削減: Toilとは、手作業で、繰り返し行われ、自動化可能で、長期的な価値を生まない運用作業のことです。SREは、このToilを積極的に自動化し、エンジニアがより創造的で価値の高い仕事に時間を使えるようにすることを目指します。
実際に使ってみた感想
私自身も、チームでSREのプラクティスを導入しようと試みた経験があります。理論は素晴らしくても、実践にはいくつかの壁がありました。
学習の過程と最初の印象
CrowdStrikeの障害報告が出た後、早速チームで読み合わせとディスカッションを行いました。最初の印象は「うちのシステムとは規模が違うし、セキュリティ製品特有の問題だよね」という、どこか他人事のような雰囲気でした。しかし、根本原因が「特定の条件下でOSをクラッシュさせるフィルタリングロジックのアップデート」にあると深掘りしていくうちに、「待てよ、僕たちのデプロイプロセスも、特定の条件下でのみ発生するバグを検知できる仕組みになっていないぞ」という気づきが生まれました。この瞬間、チームの空気が変わったのを覚えています。

つまずいたポイントと解決方法
最もつまずいたのは、初めてポストモーテムを実施した時です。小さなデプロイミスを題材にしたのですが、どうしても「誰がそのコードを書いたのか」「誰がレビューで見逃したのか」という個人への責任追及のような雰囲気になってしまいました。これでは、誰も正直に失敗を報告しなくなってしまいます。
そこで、ファシリテーターとして「Blameless(非難なき)」の原則を改めてチームに説明し、「『注意不足だった』で終わらせず、『なぜ注意だけでは防げない仕組みだったのか?』を考えよう」と根気強く促しました。具体的には、議事録のテンプレートに「個人ではなくプロセスやシステムの問題点」という項目を設け、議論の焦点を意図的にずらす工夫をしました。これを繰り返すうちに、建設的な再発防止策が生まれる文化が少しずつ根付いていきました。
実際の開発での使用感
SREの考え方を取り入れてから、チームには明らかに良い変化がありました。小さなインシデントでもポストモーテムを行うようになったことで、システムの弱点やドキュメントの不備が次々と明らかになり、具体的な改善アクションに繋がっています。また、エラーバジェットの概念を導入したことで、開発チームと運用担当者の間で「リリースの速度」と「安定性」に関する共通言語が生まれ、無用な対立が減りました。何より、「障害は学びの機会」というポジティブなマインドセットがチーム全体に広がり、心理的安全性が高まったことが最大の収穫だと感じています。
基本的な使い方(ステップバイステップで学ぶアップデート管理)
CrowdStrikeの障害から学ぶべき最も直接的な教訓は、安全なアップデート管理です。ここでは、その第一歩となる「フィーチャーフラグ」を簡単なコードで実装してみましょう。
環境構築の手順

フィーチャーフラグを試すのに、大掛かりな環境は必要ありません。Node.jsがインストールされたPCがあれば十分です。まずは、プロジェクト用のディレクトリを作成し、npm init -y
で初期化後、WebフレームワークであるExpressをインストールします。
npm install express
次に、プロジェクトのルートにapp.js
というサーバーのコードと、config.json
という設定ファイルを作成します。このconfig.json
がフィーチャーフラグのオン・オフを管理する司令塔になります。
最初の「Hello World」から始める
私たちの目標は、サーバーを再起動せずに、新機能のオン・オフを切り替えられるようにすることです。まずは、新旧2つのバージョンのメッセージを返すだけのシンプルなWebサーバーを作りましょう。
config.json
: 新しいヘッダー機能(newHeaderFeature)を無効(false
)に設定します。app.js
:config.json
を読み込み、newHeaderFeature
がtrue
なら新バージョン、false
なら旧バージョンのメッセージを返します。
基本的なコード例と解説
それでは、実際のコードを見ていきましょう。非常にシンプルですが、強力なコンセプトが詰まっています。
1. 設定ファイル (config.json)
{
"featureFlags": {
"newHeaderFeature": false
}
}
ここには、アプリケーションの様々な機能を制御するためのフラグを定義します。今回はnewHeaderFeature
というフラグを一つだけ用意し、初期値をfalse
にしています。
2. サーバーサイドのコード (app.js)
const express = require('express');
const fs = require('fs');
const app = express();
const port = 3000;
// 設定ファイルを読み込む
// 本番環境では、設定変更を動的に検知する仕組みが必要です
const getConfig = () => {
try {
const configFile = fs.readFileSync('./config.json', 'utf8');
return JSON.parse(configFile);
} catch (error) {
console.error('Error reading config file:', error);
// デフォルトの設定を返す
return { featureFlags: { newHeaderFeature: false } };
}
};
app.get('/', (req, res) => {
const config = getConfig();
// フィーチャーフラグの値に応じて表示を切り替える
if (config.featureFlags.newHeaderFeature) {
res.send('<h1>Hello World, v2! (New Feature Enabled)</h1><p>新しいヘッダーが表示されています!</p>');
} else {
res.send('<h1>Hello World, v1! (Stable)</h1><p>これは安定版の表示です。</p>');
}
});
app.listen(port, () => {
console.log(`Server running at http://localhost:${port}`);
console.log('config.json の newHeaderFeature を true に変更して、ブラウザをリロードしてみてください。');
});
このコードを実行し(node app.js
)、ブラウザで http://localhost:3000
にアクセスすると、「Hello World, v1! (Stable)」と表示されます。次に、サーバーを動かしたままconfig.json
のnewHeaderFeature
をtrue
に書き換えて保存し、ブラウザをリロードしてみてください。今度は「Hello World, v2! (New Feature Enabled)」と表示が変わるはずです。これがフィーチャーフラグの基本です。コードのデプロイなしに、機能の有効・無効を切り替えられるのです。
実践的な活用方法
フィーチャーフラグは基本ですが、さらに進んだ安全なリリース戦略も存在します。
実際のプロジェクトでの活用例
実際のプロジェクトでは、「カナリアリリース(Canary Release)」という手法がよく使われます。これは、炭鉱でガスの危険を察知するためにカナリアを連れて行った故事に由来します。
具体的には、新しいバージョンのソフトウェアを、まず全ユーザーの1%や社内ユーザーといったごく一部の環境にだけデプロイします。そして、そのカナリア環境でエラーレート、レスポンスタイム、CPU使用率といったSLIを注意深く監視します。もし何も問題がなければ、公開範囲を5%、20%、50%、100%と段階的に広げていきます。万が一、カナリア環境で問題が検知されれば、すぐにロールバック(元のバージョンに戻す)することで、影響を最小限に抑えることができます。CrowdStrikeの障害も、このような段階的な展開と監視が徹底されていれば、被害の拡大を防げたかもしれません。
チーム開発での使用方法
チームで安全なリリースを実現するには、技術だけでなくプロセスも重要です。
- リリースチェックリストの作成: デプロイ前に確認すべき項目(テストはパスしたか、監視ダッシュボードは準備したか、ロールバック手順は明確か等)をリスト化し、毎回確認します。
- 役割分担の明確化: リリースを実行する「デプロイ担当者」、システムのメトリクスを監視する「監視担当者」、問題発生時にコミュニケーションを取る「インシデントコマンダー」など、役割を事前に決めておきます。
- コミュニケーションの活性化: Slackなどのチャットツールに専用チャンネルを作り、「今からカナリアリリースを開始します」「CPU使用率、異常なし」「全ユーザーへの展開を完了しました」といった状況をリアルタイムで共有します。
他の技術との組み合わせ
安全なリリース戦略は、他の技術と組み合わせることでさらに強力になります。
- CI/CDパイプライン: JenkinsやGitHub ActionsなどのCI/CDツールに、カナリアリリースのステップを組み込むことで、リリースプロセス全体を自動化できます。
- 監視ツール: Prometheus, Datadog, New Relicといった監視ツールと連携し、カナリア環境のSLIを自動で監視します。SLOを逸脱するような異常値を検知したら、アラートを飛ばすだけでなく、自動でロールバックを実行する仕組みも構築可能です。
学習者が陥りやすい罠と対策
SREや安全なリリースの考え方を学ぶ上で、初心者がつまずきやすいポイントがいくつかあります。
よくあるエラーと解決方法
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罠1: 「ツールを導入すればSREができる」という誤解 SREは文化であり、考え方です。高価な監視ツールを導入しても、チームにポストモーテムの文化やSLOへの意識がなければ、宝の持ち腐れになります。 対策: まずはツール導入より先に、チームでSREに関する本を輪読したり、小さな障害でポストモーテムの練習をしたりすることから始めましょう。文化の醸成が最優先です。
-
罠2: 最初から完璧なSLOを目指してしまう 完璧なSLOを定義しようとすると、議論だけで何週間もかかってしまいます。 対策: まずは「これくらいかな?」という仮のSLOを設定し、実際に運用しながらデータを見て調整していきましょう。「完璧よりまず終わらせろ(Done is better than perfect)」の精神が大切です。最初は緩めの目標から始め、徐々に厳しくしていくのが現実的です。
効率的な学習方法
- 他社のポストモーテムを読む: Google、Netflix、GitHubなど、多くの企業が障害報告(ポストモーテム)を公開しています。これらは、一流のエンジニアたちがどのように問題解決に取り組んでいるかを学べる、最高の教材です。
- 自分のコードで小さな「障害」を起こしてみる: 意図的にバグを埋め込んだり、負荷をかけてパフォーマンスを劣化させたりして、それが監視ツールでどのように見えるかを確認してみましょう。実践に勝る学習はありません。
おすすめの学習リソース
- 書籍『Site Reliability Engineering』『The Site Reliability Workbook』: SREのバイブルとも言える2冊です。GoogleのSREチームが蓄積したノウハウが詰まっています。少し難しいですが、チームで読み進める価値は十分にあります。
- 各社のエンジニアリングブログ: インターネット上には、企業のエンジニアリングブログに良質な記事が溢れています。特にインシデント対応やSREに関する記事は、現場の生きた知識の宝庫です。
他の選択肢との比較
SREは万能薬ではありません。従来の運用方法との違いを理解し、適切な場面で選択することが重要です。
類似技術との違い
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従来のシステムアドミニストレーター(シスアド)との違い: シスアドは、サーバーの構築や手作業での障害対応が主な役割でした。一方、SREはソフトウェアエンジニアとして、運用業務の自動化や信頼性のための仕組み作りをコードで解決します。役割がリアクティブ(事後対応)からプロアクティブ(事前対策)にシフトしています。
-
DevOpsとの関係: DevOpsは開発(Dev)と運用(Ops)が協力し、ビジネス価値を迅速に届けるための文化や考え方です。SREは、そのDevOpsの理念を「信頼性」という観点から具体的に実践するための、一つの強力な方法論と位置づけられています。
どんな場面でこの技術を選ぶべきか
- サービスの規模が大きくなり、障害がビジネスに与える影響が無視できなくなった時。
- 開発チームはどんどん新機能を出したいが、運用チームは安定性を重視してリリースの頻度を下げたい、といった対立が起きている時。
- 24時間365日の運用で、担当者がアラート対応に疲弊している時。
小規模なサービスでも、最初からコードによるインフラ管理(Infrastructure as Code)やデプロイの自動化といったSREのプラクティスを取り入れておくと、将来サービスが成長した際にスムーズに対応できます。
学習コストと習得メリット
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学習コスト: SREになるには、Webアプリケーション、ネットワーク、OS、データベースといった幅広い知識に加え、自動化のためのプログラミングスキル(PythonやGoがよく使われます)が必要です。また、文化を変えることには時間がかかります。
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習得メリット: システムの信頼性をデータに基づいてコントロールできるようになります。これにより、エンジニアは無駄な手作業や深夜の障害対応から解放され、より創造的な開発業務に集中できます。結果として、サービスの品質と開発速度の両方を向上させることができ、エンジニアとしての市場価値も大きく高まるでしょう。
まとめ:この技術を学ぶ価値
CrowdStrikeの大規模障害は、ソフトウェアが現代社会の基盤であり、その信頼性を維持することがいかに重要であるかを、私たちに改めて突きつけました。このインシデントは、特定の企業の失敗談ではなく、システム開発に携わるすべての人々への警鐘です。
システムの信頼性は、スーパーヒーローのような一人の天才エンジニアが支えるものではありません。SREの考え方や、今回紹介したフィーチャーフラグ、カナリアリリースといった安全なアップデート戦略をチームの文化として根付かせ、全員で作り上げていくものです。
これらの技術や考え方を学ぶことは、単に障害に強いシステムを作る方法を知るだけではありません。それは、データに基づいて冷静に判断し、失敗から学び、チームとして成長していくための方法論を身につけることです。そして何より、ユーザーが安心して使えるサービスを提供し続けるという、私たちエンジニアの最も重要な責任を果たすための、強力な武器となります。さあ、今日の失敗を明日の成功の糧にして、一緒に学び続けていきましょう!
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